新人の石垣のりこ参院議員(立民)が「この政権の堕落の象徴とも言える『桜を見る会』について」と前置きして安倍総理に論戦を挑んだように、本年の予算委員会においても、まだ『桜を見る会』への疑惑は晴れない。
きっかけは2019年11月8日の田村智子参院議員(共産)の質問だった。「安倍内閣のモラルハザードが問われていますが、私は総理自身の問題を質問いたします」と、初めて桜を見る会の参加者と支出が年々増えている実態に斬り込んだのだ。
毎日新聞統合デジタル取材センターの記者はデジタルを標榜するが故に、SNSの話題を常に意識している。果たしてタイムラインは田村議員の質疑の動画とともに「モリカケと同じ、税金の私物化だ!」「そんな馬鹿みたいことあるの?」〔ママ〕といったツイートであふれていた。「これはイケる」と記者魂に火がついて走り出す。
以降の経過は本欄読者の知るところで、私も大まかには知っているつもりだったが、それを生業とする記者たちの取材は緻密で、初めて知ることも多く、時系列での提示は実に分かりやすかった。
本書は発覚から2019年末までニュースサイトに掲載されたものが元だが、事態は動かずに終わる。総理や官房長官が「個人名は差し控える」「名簿は遅滞なく破棄した」などとはぐらかし、内閣府の官僚もノレンに腕押しで要領を得ないからだ。
公職選挙法違反、政治資金規正法違反で客観的には将棋で言う「詰み」なのだが、安倍総理は「負けました」とは決して言わない。今年に入り、事態が悪化する中、総理は妙なことを言い出す。傑作は「募ったが募集はしていない」であろうか。「ホテルと参加者の契約」とも言い、契約はいつの間にか「合意」と名を変えた。そしてあろうことか、東京高検検事長の定年延長という奇策に出た。官邸と近いその人を検事総長にとの目論見は明らかだが、さて今後の推移は?
[レビュアー]立川談四楼(落語家)
新潮社 週刊新潮 2020年2月27日梅見月増大号 掲載
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