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『バリバラ』桜を見る会(3)「妹に反対されてもなぜ声を上げたのか」伊藤詩織氏が語った言葉の強さ(水島宏明) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース

 ネット上でも評価が高かったNHKのEテレ『バリバラ』「桜を見る会~バリアフリーと多様性の宴~第二部」(4月30日放送、5月3日再放送)。

 政治を風刺したパロディーもさることながら、そうした笑いで視聴者の興味を引きつけながら、社会に根深く巣食っている「差別」や「偏見」について、そうした問題の被害に遭う当事者側の声を伝えた意義は大きい。

 車イス利用者である東佳美さんが口火を切った。

(東佳美・自立生活センター職員)

「さて2019年度、私たちがその行方を気にしてきた、2つの裁判に触れたいと思います。知的障害者19人が殺された津久井やまゆり園の裁判、そして障害者に対して強制的に不妊手術を受けさせていた旧優生保護法をめぐる裁判です」

(ナレーション)

「2つの事件。根っこにあるのが、『優生思想』。人の命に優劣をつける考え方だ」

 脳性麻痺を持つ、この番組のご意見番的な出演者の玉木幸則さんが、障害者ダンサーの森田かずよさんの踊りと音楽に合わせて朗読した。

(語り・玉木幸則さん/『バリバラ』障害当事者コメンテーター)

「19人が殺された事件の裁判、植松被告の言葉の意味を僕はまだよく理解できずにいる。

『重度障害者は存在自体が不幸をつくる』

『意思疎通ができない人は人間じゃない』

こうも言った

『僕はあまり役に立つ人間ではなかったです』

彼だけが特別か?

そうじゃない。

『障害者は子どもをつくるな』

そんな法律が最近まであったことを知っていますか?

『不良な子孫の出生を防止する』

そんな法律の下、

『悪質遺伝をもっている人は社会の経済を破壊し、秩序、安寧を乱す』

と言われ、

しばしば本人の意思に反して、不妊手術が行われた。

被害者は全国に2万5千人。

一部の異常者がやったこと?

もう過去のこと?

違う。

そこにも

ここにも

今も内なる優生思想はある。

植松聖を

罰したとしても

彼を生んだ社会は

そのままここに

残っている」

(司会・万次郎さん/トランスジェンダーの芸人)

「今日いらしていただいた小林喜美子さん、結婚してまもない二十代の頃、不妊手術を受けさせられてしまった。その時のことをお話、聞かせていただけますか?」

(小林喜美子さん・手話で話す)

「私は小林喜美子です。3歳のとき病気で耳が聞こえなくなりました。

昭和35年=1960年5月に結婚しました。その後、妊娠することができて産婆さんに『おめでとう』と言ってもらいました。とてもうれしかったです。

次の日の朝、主人は仕事へ行きました。主人の実家で暮らしていたのですが、私の母が呼ばれまして、母親同士で話をしていました。

(母から)『赤ちゃんが腐っているから捨てよう』と言われて、寂しい気持ちになりました。何が起こっているのかわからないまま、入院して手術を受けさせられました。主人の元に戻った時に『赤ちゃんを捨てられてしまった』と言って、辛くて悲しかったです」

(夫・小林寶二さん・手話で話す)

「『どうしてそんなことになったのか?』と聞いても、喜美子はずっと泣いています。私の母がやってきて『喜美子さんは赤ちゃんはダメ』と身振りで言いました。『どうしてそんなことを言うのか?』と聞きましたが、口をつぐんで何も返事をしてくれません。私は手話で一生懸命気持ちを伝えましたが、母は手話がわからないので、悔しくて。どうしてこんなことになってしまったんだろうと思いました」

(妻・喜美子さん)

「その後、2年ほどたった時に『もう一度赤ちゃんを作ろうか?』と主人と話し合って、仲良くしていましたが、一向に妊娠することはありませんでした」

 喜美子さんは中絶手術の際、知らぬ間に不妊手術も受けさせられていた。

 本人はそれをいつ頃、知ったのだろうか?

(喜美子さん)

「3年ほど前のことです。子どもがいない聾唖者への調査があって、そこで見つけてもらいました。不妊手術を受けさせられていたことは知らなかったので、本当に悔しく思いました。もう一度、体を元に戻してほしいと思いました」

(夫・寶二さん)

「だまされた!と思いました。もう、なんてことをされたんだと思いました。こんなに長い間、何も知らずにだまされていた。そんな聞こえない人がたくさんいる。まわりの友人には子どもがいるのに、僕たちは産ませてもらえなかった。なんてことをされたんだ。これは差別だと思いました」

(副島淳さん・俳優/タレント)

「僕もまったく勉強不足で、この法律(旧・優生保護法)の名前すら知らなかったんですけど、本当に信じられないという感じでいっぱいですね」

(夫・寶二さん)

「本当のことなんです。(副島さんに向かって手話で)ありがとう」

(副島淳さん)

「なんでこんなことを法律として、各自治体とかに言って、やらせているのか。まったく理解できないですね」

(Taskeさん・交通事故で高次脳機能障害)

「悲しくなってくる。怒りと悲しみが交差するというか」

(森田かずよさん・障害者ダンサー)

「知ったのが3年前というのが本当に衝撃的で、それも聾唖の団体の人が調べない限りはもしかしたら明るみに出なかった、となると、すごく恐ろしい話だと思いました。もっと本当にいっぱい事例はあったんだろうなと思うと、本来はもっともっと調べていくべきだし、(小林さん夫婦のように)顔を出してちゃんと(経験を)言ってくださる方がいるということはすごく大切なことだと思いました」

(妻・喜美子さん)

「みんなにそのことを知らせて、(意に反して)子どもを産めないというのはよくない。みんなが産みたい人が子どもを産めるように、私の悔しい気持ちを、この長年の気持ちを伝えたいと思いました」

なぜ伊藤詩織さんは声を上げたのか?

 ここで司会者・万次郎さん(トランスジェンダーの芸人)が性暴力被害者でこの問題と闘うジャーリストの伊藤詩織さんと在日コリアンでヘイトスピーチと闘う崔江以子(チェ・カンイヂャ)さんに話を向けた。

(万次郎さん)

「多くの人が沈黙したり、匿名で活動するような場面で、顔と実名を出していく、と決意されたと思うんですが、それはなぜなんですか?」

 この後の伊藤詩織さんの語りは心を揺さぶるものだった。

(伊藤詩織さん)

「やっぱり実名で顔を出して話すということは、家族に止められましたし、あの……なんで、妹から言われた言葉を今でも覚えているんですけど、

『なんでお姉ちゃんなの?』って。

『他の人でもいいじゃない?』って。

私は法律に守られなかったってことが一番ショックだったんですよね。『助けて』と言える社会の中のスペースがなかった。

そこを変えていきたい。

あの、待っていちゃダメだと。

私が待っていたら、大事な妹だったり、友だちだったり、が、次の被害に遭ったときに同じことが起きてしまう。

『被害者』という名前ではなくて、ちゃんと、生活があって、その人には、人生があって、家族もいて、誰かの大切な人だった。…ということを伝えるためにはきちんと出て話さなければいけないと」

 伊藤さんはスタジオの中で新型コロナウイルス防止のためにマスクをしていた。だが、マスクをして口元を覆っていても、彼女の両目が涙ぐんで赤く染まっているのが見てとれた。

 話し方や声のトーン。そのすべてが彼女の語っている思いの切実さを物語っていた。スタジオ中がシーンと静まり返って彼女の言葉に耳を傾けていた。

 本当につらい体験をして、その中で覚悟を決めた人間だけが持つ言葉の強さ。それを伊藤さんはテレビ番組の中で見せてくれた。

 「バリバラ桜を見る会」でパロディーにされて風刺的に描かれた安倍政権の首脳たち。

 伊藤詩織さんのケースでは加害者とされる元TBS記者の男性が安倍首相に極めて近かったことで刑事事件として立件されなかったのではないかと疑念を呼んでいる。

 ただ、この番組での伊藤詩織さんはそうした自分の個別の事件以上に、性暴力の被害者になったときに大事にしなければならないことを語り続けた。

 「被害者」という一般名詞ではなく、一人ひとりが顔と名前を持った人間なのだと訴えるため、そして自分には社会の中に「助けて」と言えるスペースがなかったとして、それを変えたいと自らの顔と名前を出して声を上げたと話した。

 その言葉は植松聖死刑囚が「障害者」を一括りにして、「生きる価値がない者」というふうに考えて、一斉に命を奪った根にある考え方から脱却し、人間を一括りにせず一人ひとりが名前をもち、生活がある生身の人間だと認めることが大事だと訴えているようだった。

(崔江以子(チェ・カンイヂャ)さん・在日コリアン3世)

「生活の場を襲ってきたヘイトデモやネットのヘイト攻撃に対して、ただただ助けてほしかった。『助けて』とかろうじて声を絞り出した。発信すると攻撃されるから、と沈黙してしまうと、私たちの『表現の自由』が守られない。被害を発信することで多くの人に被害を知ってもらって、『そんなのおかしいよ』と思ってくれる仲間を増やすことができる。そそのことに支えられて、被害を(警察に)届けて、仲間を増やして、属性でもって社会から廃除されること、『締め殺せ』と脅されることを許さない社会が実現できるんだと。こういうふうに確かめながら、声を支えてもらったというのがそれは本当に大きいです」

(玉木幸則さん・障害当事者コメンテーター)

「お二人の話を聞いていて、やっぱり名前を出して被害を明らかにさせていくことは、社会を変えていくための、原動力になっているのは間違いない。

ただし、当事者だけががんばり続けたらええんか?というと、そうではなくて、みんなで考えて、みんなで変えていこうと思う」

【お笑いコンビ・三拍子の「募っているけど募集してない漫才」】

(高倉陵)

「今みたいなネタ、思いついたら、ぜひEテレまで送ってください」

(久保孝真)

「いや。勝手に募集しないでください。募集フォームとかないから、募集してないんですよ」

(高倉陵)

「いや、募ってはいるけど、募集はしてません」

(久保孝真)

「安倍首相か、お前は?」

(高倉陵)

「えっ?安倍首相?」

(久保孝真)

「聞いたことないですか?

桜を見る会で国会で質問されたでしょう?

そのときに『募集したんですか?』と聞いたら、

『いや、募ったのは募ったんですけど、募集はしているという認識はありません』と。

『いや、一緒ですよ』と。

これ、聞いてないですか?」

(高倉陵)

「いや、聞いたことはあるけど、耳にしたことはない」

(久保孝真)

「同じだよ。それは。同じことを言っているんだよ、首相と」

(高倉陵)

「いや、言ってはいるけど、発言はしていない」

(久保孝真)

「一緒だって、だから」

(高倉陵)

「豚肉とキャベツで炒めてはいるけど、回鍋肉(ホイコーロー)ではない」

(久保孝真)

「回鍋肉だよ」

 こうした笑いも折り混ぜ、「差別」や「偏見」に対して当事者が声を上げることの大切さと社会を変えていくために連携の重要性を伝えた。

 『バリバラ』の放送後のホームページには、伊藤詩織さんの言葉が掲載されている。

「やっぱりどんな命も選別されてはいけない。ほんとにそのメッセージを伝えてくださった(小林夫妻に)感謝しますし、そのボールを私たちがどう受け止めていくのか? やっぱり(優生思想は)消えてないですよね、その法律がなくなったとしても。私たち一人ひとりが考えていかないといけないこと」(伊藤詩織)

出典:NHK『バリバラ 旧優生保護法(4月30日「バリバラ桜を見る会」の放送を元にした記事)

 番組のエンディングで「私、うちにテレビがないんですけど、これからはテレビを導入して『バリバラ』を見られるようにしたい」と晴れやかな表情で語っていた伊藤詩織さん。

 彼女が語った妹からも止められたというエピソードはその光景が浮かんでくるほど切実で胸に訴える言葉だった。

 伊藤さんは性暴力というテーマはもちろんだが、その他のテーマについても語ることができる人だと確信させてくれた。

 『バリバラ』の出演をきっかけに彼女の活躍の場がこれから広がっていくことを期待したい。

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May 04, 2020 at 07:00AM
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