脳外科医と会ったことのない人はいても、薬剤師と会ったことのない人はいないだろう。しかし、薬剤師の仕事ぶりを詳しく知っている人はそれほど多くはない。 【写真】『アンサング・シンデレラ』石原さとみと西野七瀬コンビ 石原さとみ主演の『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』(フジテレビ系)は、これまでドラマでほとんど扱われることがなかった病院に勤務する薬剤師にスポットを当てた作品だ。「アンサング」とは「褒められない」という意味。医師と患者にとって、縁の下の力持ち的な存在である病院薬剤師たちの活躍と葛藤を描く。 原作は、荒井ママレのコミック『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』(医療原案:富野浩充、コアミックス)。新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期になっていたが、ようやく7月16日に初回放送を迎える。
原作との大きな変更点
石原さとみが演じるのは、お団子ヘアがトレードマークの薬剤師・葵みどり。みどりとともに働く新人薬剤師・相原くるみを西野七瀬、みどりを厳しく見守る薬剤部副部長の瀬野章吾を田中圭が演じる。 実はドラマ化にあたって主人公の年齢とキャリアが大きく変更されている。原作のみどりはキャリア2年目の若手薬剤師として設定されているが、ドラマのみどりはキャリア8年目の中堅薬剤師だ。演じる石原の33歳という年齢が考慮された変更だろう。 薬剤師としての経験も実績もあり、信念を持って仕事しているが、壁にぶつかることもあるし、うまくいかないこともある。それでも彼女なりに患者に寄り添い、薬剤師として患者にとって「最後の砦」であろうとする……という物語になりそうだ。 石原はこれまでテレビドラマで4度、医療に従事する職業を演じてきた。その変遷をたどると興味深い。
医療ドラマに見る石原さとみの「進化」
民放での連続ドラマ初主演作となったのが、『Ns'あおい』(2006年/フジテレビ系)。当時20歳の石原が演じたのは、内科に勤務する23歳の看護師・美空あおい。もともとは総合病院の救命救急センターの看護師だったが、搬送されてきた患者の命を救おうとして違反行為をしてしまい、内部告発を受けていわくつきの病院に転属してきたという過去を持つ。 あおいは看護師として高い能力を持つが、腐敗した病院を看護師の立場から変えていこうとしたとき、彼女の大きな武器になったのは、まっすぐさ、健気さ、明るさだった。このようなキャラクターは、初主演作のNHKの朝ドラ『てるてる家族』(2003年)で演じた冬子役とも類似している(冬子のおっちょこちょいの部分は2007年のフジテレビ系ドラマ『花嫁とパパ』で演じた愛子に引き継がれた)。 次に医療従事者を演じたのが、『ヴォイス~命なき者の声~』(2009年/フジテレビ系)。法医学ゼミに所属する5人の若者たちが、遺体の死因を解明しつつ、物言わぬ遺体からのメッセージを読み解こうと奮闘する物語。後に石原が主役を務める『アンナチュラル』(2018年/TBS系)とも通じるテーマを持つドラマだ。 ここでの石原の役柄は、法医学ゼミに所属する22歳の医学生・久保秋佳奈子。医学部一の才女でデータ重視派の彼女は、同じゼミで「天然」の大己(瑛太)と張り合うことが多い。「明るく健気でドジっ子」的な役柄からの脱却は、前年に出演したミステリードラマ『パズル』(2008年/テレビ朝日系)などで行われていたが、それをさらに推し進めている。 東野圭吾原作の医療サスペンスドラマ『使命と魂のリミット』(2011年/NHK総合)で石原が演じたのは、大学病院の心臓血管外科に勤務する研修医・氷室夕紀。手術中に亡くなった父の死の謎を追いつつも、医師としての「使命」の狭間で揺れるという複雑な役柄を演じてみせた。 看護師、医学部の学生、研修医と進んできた石原が、『失恋ショコラティエ』(2014年/フジテレビ系)、『ディア・シスター』(2014年/フジテレビ系)などの“女子力が際立つ役柄”と、『リッチマン、プアウーマン』(2012年/フジテレビ系)、『5→9 ~私に恋したお坊さん~』(2012年/フジテレビ系)、『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』(2016年/日本テレビ系)などの“等身大キャリアガール”を経て、久々に医療の現場(?)に復帰したのが『アンナチュラル』である。 『アンナチュラル』で石原が演じたのは、1500件の解剖実績を持つ33歳の法医学者・三澄ミコト。ミコトは一家心中の生き残りという複雑な過去を乗り越え、積み上げてきた経験をもとに、真摯に遺体と向き合って隠されたメッセージを見事に読み解いていく。フラットな視線とフェアネスの持ち主であり、ナチュラルに多様性を肯定できる人物として描かれていた。 石原さとみといえば『失恋ショコラティエ』に代表されるような「女子力高め」の役柄を演じている印象が強いかもしれないが、こうして彼女が出演した医療ドラマに絞って見ていくと、年齢を重ねるとともに、着実に複雑な役柄を演じるようになっていることがよくわかる。「進化」とも言えるし、「深化」とも言える。「女子力」が求められた時代から、女性として受けてきた抑圧を跳ね除けてもいいという考え方が浸透してきた時代の変遷も影響しているだろう。 『アンサング・シンデレラ』で石原が演じるのは、年相応のキャリアを重ねつつ、現実の壁にぶち当たって苦しみ、それをなんとか突破しようとする等身大の病院薬剤師だ。失敗はするが「ドジっ子」ではなく、女性としての洞察力を発揮するが「女子力高め」でもない。どこにでもいそうな人物になるだろう。類型的なキャラクターから離れ、進化してきた33歳の石原さとみがどのような姿を見せてくれるのか、楽しみでならない。
大山くまお
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July 13, 2020 at 06:34PM
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医療ドラマに見る石原さとみの“進化” 『アンサング・シンデレラ』までの変遷を辿る(リアルサウンド) - Yahoo!ニュース
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