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北朝鮮と渡り合ったアメリカ外交官が見る「日朝交渉、打開の道は」:朝日新聞GLOBE+ - GLOBE+

インタビューシリーズ「金丸訪朝30年 日朝外交これまで、これから」

  1. 金丸信吾氏(金丸信・元副総理次男)
  2. 田中均氏(元外務審議官)
  3. 石破茂氏(衆院議員)
  4. 佐々江賢一郎氏(元駐米大使)
  5. ジェームズ・ケリー氏(元米国務次官補)

ケリー氏は日朝首脳会談から1カ月後の2002年10月に訪朝した。米国は当時、北朝鮮がひそかに高濃縮ウランによる核開発を進めている証拠を入手していた。同年7月には、ケリー氏は日本政府に「ウランについていくつかの新しい情報がある。これは重大な問題だ。日米が別々の方向に進むのは望まない」と伝えていたという。ウラン濃縮が事実であれば、日米などによる支援と引き換えに、北朝鮮が核開発を凍結する1994年10月の米朝枠組み合意に違反していた。ケリー氏は訪朝して、北朝鮮側にこの事実を伝えた。

ケリー氏が当時、書き留めたメモによれば、姜錫柱第1外務次官は同氏らとの会談で通訳を交え、45分間も演説した。姜氏はひたすらペーパーを読み上げていたが、極めて難解な表現を多用していた。ケリー氏がそっとのぞき込むと、非常に細かい字でタイプされたペーパーで、たくさんの書き込みがしてあった。北朝鮮が急いで準備した文書だということがわかった。姜氏は「私は、軍を含めて様々な関係当局者と徹夜で協議した。我々はウラン濃縮をやっている。我々は核開発計画を持っているし、やるならやってもいい。あなた方大国は、朝鮮に対してでしゃばるのをやめるべきだ。なぜ、あなた方は日本が我々にくれようとしているカネの話を潰そうとするのか。我々は米国に振り回されるつもりはない」と主張した。

ただ、姜錫柱氏は発言の最後に「この問題を解決するため、我々と米国の最高指導者が話し合う必要がある」と訴えた。米朝枠組み合意を維持したい思惑が透けて見えた。

ケリー氏らはワシントンに戻り、姜錫柱氏の発言を報告した。パウエル国務長官はなお、制裁に慎重な姿勢を示したが、強硬派のボルトン国務次官は「枠組み合意はゴミになった」と言って喜んだ。チェイニー副大統領やラムズフェルド国防長官も同様だった。

米朝枠組み合意は崩壊した。ケリー氏らの努力で、2003年8月に6者協議が始まった。この少し前、ケリー氏は03年4月、北京で中国の王毅外務次官、北朝鮮の李根外務省北米局長と協議した。李氏は夕食会後の懇談の席上、突然、「朝鮮は1994年に核爆弾を作った。我々は核爆弾を持つ権利があるし、持っている。我々はあなた方に過去、説明したのに、あなた方は信じなかった。なぜ米国は信じないのか」と一方的に語ったという。

――金丸訪朝団から30年ですが、なぜ米朝や日朝の関係が改善しないのでしょうか。

日米韓はもちろん、中国ですら、核兵器を持つ北朝鮮と付き合いたいとは思っていない。北朝鮮の核開発は以前から米朝間の最重要課題だったが、最近では北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の改良に伴い、米国への直接的な脅威になっている。もちろん、北朝鮮の核兵器は、日本や韓国にとっての脅威でもある。

――金丸元副総理に会われたことはありますか。

1980年代に数回会ったことがある。金丸氏らが訪朝する際、当時のベーカー米国務長官が北朝鮮の核開発について言及するよう依頼したことがある。北朝鮮は当時、寧辺核施設でプルトニウムの再処理を行っているという疑惑があったが、確認されていなかったからだ。

――ケリー氏は2002年の日朝平壌宣言直後に訪朝し、ウラン濃縮疑惑を提起しました。米国は当時、日朝国交正常化を認める考えだったのですか。

(ケリー氏は同年8月末、アーミテージ国務副長官らと来日した際、小泉首相から「来月訪朝することを計画している」と伝えられた。ただ、ケリー氏は日朝交渉の事実を知っていたため、小泉氏の説明を聞いてもそれほど驚かなかったという。)

我々は、日朝が秘密交渉を行っていることを知っていたし、日朝が国交正常化すると言えば、認めていただろう。日本は主権国家だし、当時は世界第2位の経済大国だった。自らが求めることを実現させる力があった。

日本は核開発問題を無視していなかったし、日朝平壌宣言は核について言及していた。小泉純一郎首相は訪朝の1週間ほど前、J・W・ブッシュ大統領とこの問題について協議も行った。当時、小泉政権は発足から間もない時期だったが、小泉氏とブッシュ氏の間には強い信頼関係が築かれていた。

しかし、日朝国交正常化の動きを押し戻したのは、(核問題ではなく)日本人拉致問題という日本国内の事情だった。

――北朝鮮の核開発を巡る6者協議は2008年以降、開かれていません。なぜ、失敗したのですか。

いくつかの原因があると思う。(非核化への包括的なロードマップを示した)2005年9月の6者協議共同声明は重要だったが、進展しなかった。

中国が北朝鮮にもっと影響力を行使すべきだった。当初、原油の供給を止めたこともあったが、最後は北朝鮮側についてしまった。逆に、北朝鮮が6者協議に参加したのも、中国が強く求めたからでもあった。

北朝鮮の核をめぐる6カ国協議に出席するため北京に到着し、ホテルに入口で記者の質問に答えるケリー米国務次官補=25日午後9時40分、北京市で、江口和裕撮影
2003年8月、北朝鮮をめぐる6者協議に出席するために北京に到着したジェームズ・ケリー米国務次官補(当時)=江口和裕撮影

――北朝鮮との外交交渉の印象を教えてください。

私が代表だった当時の6者協議は、米朝が直接対話しないという状況が続いた。北朝鮮はいつも、公式でも非公式でも、私たちにメッセージを発信することを狙っていたが、同時に事故も恐れていた。彼らは意図せずに、米国メディアが取り上げてしまうような発言をすることを望まなかった。下手をすれば、彼らとその家族は刑務所に行くことになるので、常に発言に慎重になっていた。

――どうすれば、中国は北朝鮮核問題に協力してくれるでしょうか。

中国が朝鮮半島の安定をより重視しているのは事実だが、北朝鮮の非核化を巡って協力を取り付けられないわけではない。中国は北朝鮮が核を保有することや中朝国境地帯で核実験を行うことを好まない。

中国は状況を不安定化させてまで北朝鮮に非核化を迫らないが、逆に言えば、北東アジアの安定に貢献すると思えば、積極的に貢献するだろう。

中国は現在、韓国の文在寅政権との間でほほ笑み外交を展開している。習近平中国国家主席は帝国の支配者であり、国境を接した国が賛辞を送ることを期待していると思う。日本は、中国と国境を接していないため、少し違う対応をするのではないか。

――2018年6月の米朝首脳共同声明をどう評価しますか。

北朝鮮は、国連制裁の緩和や経済協力と引き換えに、核開発の一部を制限することに同意するかもしれない。だが、核兵器を放棄することはないだろう。

北朝鮮に核を放棄させる唯一の方法は、第二次朝鮮戦争しかない。それは悲惨な結果を招くし、米国も韓国も日本も望んではいない。この問題はさらに継続するしかないだろう。

――米中対立が激しくなり、11月には米大統領選もあります。北朝鮮情勢はどうなっていきますか。

トランプ政権は新しい米朝対話を実現させたが、簡単に解決に結びつけることはできなかった。

米国は北朝鮮への圧力を続けるだろうし、人権問題がより重要になっていくだろう。北朝鮮は現在も、ICBMの開発や高濃縮ウランの生産、新たな核兵器の開発などを続けている。これらが北朝鮮から輸出される危険も常に伴っている。北朝鮮は制裁破りを狙うし、対話や交流で交渉相手を安心させようともするだろう。

北朝鮮の核開発を巡って安定している状況は、どの国の政権にとっても良いとは言えない。米国の同盟国である韓国や日本、そして他の友好国との連携も重要だ。国連制裁を続けるなどして圧力をかけながら、対話を続けるしかない。

――米国からみて、日本の北朝鮮外交をどう評価しますか。

日本政治が拉致問題を非常に重視している状況は理解できる。だが、核は日本にとって現実に危険な存在であり、日本市民も過去より十分理解していると思う。北朝鮮や中国の核兵器は、日本にとっての現実の脅威だ。

そして、米国は拡大抑止力を提供している。北朝鮮は、日本や韓国に対して核兵器を使用すれば、受け入れられないほど絶望的な状況になる報復を米国から受けることを理解すべきだ。北朝鮮は核兵器を使えば、すぐ敗戦するだろう。

――金正恩政権をどう評価しますか。

金正恩氏は、2002年の日朝首脳会談の結果から、拉致を認めたことは誤りだったという教訓を得ていると思う。金正日総書記は日本からの経済協力を期待して拉致を認めたが、逆に日本を動揺させ、次々に疑惑を生む結果になった。

北朝鮮は、疑惑に回答できる状況ではないとみているため、日本と距離を置いている。核開発問題が解決されるまでは、米韓などと切り離して日本と交渉できる状況にもないと考えているだろう。

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September 30, 2020 at 04:16PM
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