ソニーは2020年10月16日、高精細の3DCG映像を裸眼で見ることができる空間再現(SR:Spatial Reality)ディスプレイ「ELF-SR1」を開発し、同年10月31日に発売すると発表した。特別なメガネやヘッドセットなどを使わず、その場に実物があるかのような立体的な空間映像を再現して裸眼で見られることが最大の特徴。ディスプレイを見る角度にかかわらず、視点の変化に合わせて映像を確認することができ、被写体が動いていても、立体的に見える映像に遅延やズレがないという。プロダクトデザインの共有や、ショールームなどにおける製品の色や形のバリエーションの確認、遠隔地を結んでの設計コラボレーションなどに最適で、ゲームやCGクリエイターの他、建築家や自動車のデザイナーなどあらゆる制作者のコンテンツ表現の幅を広げる可能性がある。市場想定価格(税別)は50万円前後。保証期間やサービスを充実させた法人向けモデル「ELF-SR1/BZ」も発売する予定だ。
仮想のデジタル世界で映像を体験するVR(仮想現実)に対して、ELF-SR1のベースとなっているSRは、空間そのものをそこに実在しているかのように目の前に再現する技術だ。VRで必要なメガネやヘッドセットを使わずに、裸眼で高精細な3DCG映像を見ることができる。
SRディスプレイを支える技術は3つある。1つ目は、高速・高精度のリアルタイムセンシング技術だ。高速ビジョンセンサーと視線認識技術によって、SRディスプレイを見る人の目の位置を常に正しく検出する。水平や垂直方向のみならず、奥行方向に関しても左右の目それぞれの位置をリアルタイムに把握できる。
2つ目のリアルタイム映像生成アルゴリズムでは、ユーザーの目の位置情報を基に、実際にディスプレイパネルから出す光源映像をリアルタイムに生成する。常に両目に正しい視点画像が提示されるので、実際に空間や物体がそこにあるかのように感じることができる。
そして3つ目がマイクロオプティカルレンズである。リアルタイムに生成した映像を左右の目に届けるための独自のマイクロオプティカルレンズをパネル全面に超高精度に貼り付けることにより、自然な裸眼立体視を可能にしている。従来の3Dディスプレイと比較して、片方の目の映像がもう一方の目の映像に混ざるクロストークという現象の発生を大幅に低減し、映像を正しく左右の目に届けられる。
ディスプレイのサイズは15.6インチで、輝度は500nits、コントランストは1400:1、色域はAdobeRGBで約100%、色温度は6500K、解像度は3840×2160。製品の外形寸法は、383×232×231mm、重量は4.6kg。視聴可能距離は30〜75cmで、視野角は上20度、下40度、左右25度。ディスプレイインタフェースはHDMI(2.0以上必須)で、推奨PC環境はCPUが「Core i7」相当以上、GPUが「GeForce RTX2070」相当以上、メモリ16GB以上などとなっている。
発売日の2020年10月31日には、コンテンツ制作を容易に行える専用SDK(ソフトウェア開発キット)を開発者向けWebサイトで無償提供する予定だ。3Dコンテンツの制作の定番ツールである「Unity」と「Unreal Engine 4」に対応しているので、既存の3Dコンテンツを変換することなくそのままELF-SR1で表示できる。
ELF-SR1が効果を最も発揮するのは、3D CGや3D CADなどで作成/設計したコンテンツのデザインが、立体として実空間でどのように見えるかの確認や評価だ。例えば、自動車や建築のデザインなどでは、従来のように試作品を作ることなく、ディスプレイ上で条件を変えながらさまざまな試行錯誤を繰り返すことができるので、デザインクオリティーの向上や制作コストの削減、リードタイムの短縮につながるという。
グローバルに展開する設計開発メンバー間での設計コラボレーションにも活用できそうだ。こういった設計コラボレーションではVRシステムも検討されているが、ヘッドセットを用いずに裸眼で立体視できるELF-SR1も役立ちそうだ。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、製造業の設計者もリモートワークに移行しているがELF-SR1によりデザイン確認が役立つ可能性がある。
ソニーの公式YouTubeチャンネルで公開されている「ELF-SR1」の解説映像では、「とにかく感じてたのはモノ感すげーってことなんですけど」など、建築家の豊田啓介氏やプロダクトデザイナーの青野達人氏などによるコメントが寄せられている。
「ELF-SR1」の解説映像(クリックで再生) 出典:ソニー
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