令和2年6月26日
このところ4回にわたり，WTOの新型コロナとの闘いを紹介してきた。今回はコロナ・シリーズの中締めとして，WTO界隈で最近話題に上る6つの気になる数字に着目したい（6月23日時点）。
最初の数字は，「11冊」。WTOが特設ページで公表している新型コロナに関連した報告書の数だ。4月3日に公表した医療品貿易に関する報告書を皮切りに，輸出制限，電子商取引，中小零細企業，最新の貿易見通しなど幅広い分野における新型コロナの影響分析と政策提言を行なっている。WTOは，未曾有の危機に際し，今こそグローバル・ガバナンスにおける存在意義を発揮しようと，分析や提言を意欲的に行ってきている。WTOに集積される統計データやそこで深められた専門的知見を日本国内の政策論議に活用しない手はない。外務省では，WTOの各種報告書のポイントを随時まとめホームページで広く発信している。是非，活用して頂きたい。
「マイナス18．5％」。WTOの最新の貿易見通しによる2020年第2四半期の年率での物品貿易の落ち込みだ。4月の予測では，悲観シナリオではマイナス32％と予測されていた。この数字の改善をもって貿易急減は底を打ったとの見方もある。しかし，一部の国・地域での感染拡大の深刻化や第二波による「より戻し」の可能性を過小評価すべきではないだろう。
「87．6」。四半期に公表されるWTO物品貿易バロメーターの5月末の数値。100を基準値とし，瞬間風速的に貿易量のトレンドが90から110の幅で示される。今回はメーター幅の底値を割る過去最低の数字となり，貿易面へのダメージを改めて裏付けた。
「40％」。世界の貿易量に占めるサービス貿易の割合。移動制限の影響で人を介した産業である観光や旅客運輸業などサービス貿易の落ち込みは深刻である。
「188件」。物品貿易に限って見た場合の，公開情報で明らかにされている各国の新型コロナ関連措置の全体数（236件）から，WTOに通報された48件を除いた数だ。「通報」と聞くと，警察へのそれのように，発見者が怪しい行動への取締りを当局に求める行為と思われがちであるが，WTOの通報（notification）とは，措置をとる加盟国がその概要を，WTO事務局を通じ他国に通知・報告する協定上の要式行為である。これらの数字によると，貿易関連措置の「ガラス張り率」はわずか2割3分。通報される措置はあくまでも氷山の一角に過ぎず，その4倍以上もの措置がWTOの通報制度の網を逃れている深刻な現状が浮き彫りになる。各国が通報義務を励行し，透明性を高める道のりは先が長く険しい。
「90％」。最後は景気よくまとめたい。SPS協定（衛生植物検疫措置の適用に関する協定）／TBT（協定貿易の技術的障害に関する協定）関連で通報された措置のうち，貿易投資の円滑化に資するものの割合だ。ブラジルが，これまで文書で行ってきた投資の認証手続を接触防止のために電子化したのが典型例だ。他の国も後続し，これらの「新しい生活様式」ならぬ「新しい貿易投資様式」が国際標準に結晶化していけば，「コロナ禍転じて福となす」成功事例になるだろう。
次回は，7月6日と8日に予定されているWTO対日貿易政策検討（Trade Policy Review: TPR）会合の結果を報告したい。TPRとは，加盟国が定期的に（日本の場合は3年に一度），自らの貿易政策の現状を説明し，加盟国の質疑応答を受ける制度。この会合，今年3月の開催直前に新型コロナの感染拡大で延期を余儀なくされ，ようやくテレビ会議方式での開催にこぎ着けた。これを書きながら、目下その準備に大わらわである。徐々に活動を再開しつつあるWTOの今の様子とともにお伝えしたい。
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June 26, 2020 at 01:07AM
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第15回：数字で見る新型コロナと国際貿易 - Ministry of Foreign Affairs of Japan
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