10月25日~27日に開催された全日本インカレ。
個人総合は、2日目の26日に最終日を迎えた。
この日に演じた最終種目が、大学4年生の選手にとっては、最後のインカレでの最後の演技だった。
東京女子体育大学4年生の亀井理恵子の最後の演技はリボン。
ほんの一瞬、リボンがスティックにひっかかったが、素早くリカバリーし、演技の印象を悪くすることなく、ミスの起きやすいリボンという種目を演じ切り、亀井は、安堵したような満面の笑みを浮かべた。
いつもの年なら、最終学年の選手の最後の演技終了後には、仲間たちから盛大な拍手やかけ声がかかる。
が、今年のインカレは無観客で行われたため、出番を終えた選手たちからの拍手などはいくらかはあったが、会場は静かなものだった。
それでも、亀井理恵子は、満場の観客からの喝采に応えるかのように、笑顔で手を振った。
その笑顔には、ずっと応援してくれた人たちへの感謝の気持ちが溢れていた。

亀井理恵子は、高校3年生のときに、インターハイで優勝している。
間違いなく同世代ではトップレベルの選手だった。
東京女子体育大学に進学してからも1年生のときは、全日本インカレ3位、全日本選手権でも8位と、ゴールデンルーキーと呼ぶにふさわしい活躍だった。
しかし、その後は苦しい時期が長かった。
高校時代~大学1年のころの亀井の演技は、非常に正確性が高かった。
試合で大きなミスが出ることも少なく、少々の狂いはカバーできる調整力にも長けた選手に見えていた。
手具操作も器用で、連続性の高い技を小気味よく、リズミカルに次々と決めていくその演技は見ていてとても爽快だった。
そして、なんと言っても演技中に見せるこの選手の笑顔は、見ている人を幸せにした。
肩の上げ下げや、手のひらを返す、指を開くなど、の細かい動きを駆使して、音楽を隅々まで生かそうとする音感豊かな演技は多くの人を魅了した。
が、大学2年生になった2018年から、亀井は演技中のミスが多くなった。
この年から難度点に上限がなくなったため、それまで以上に技を詰め込むことが勝つためには必要になった。
その影響か、それまでの亀井の持ち味のひとつだった正確さが影をひそめ、ミスが出るようになった。
このレベルの選手になると、ミスの一つくらいは何事もなかったような顔でやり過ごす。亀井もミスはしても変わらぬ笑顔で演技を続けてはいたが、本来の演技があまりにも音にぴたりぴたりと合っているだけに、ミスが出てしまった演技のときには、リズムの狂いが感じられてしまうことも少なからずあった。
そのリズムの狂いからかミスが連鎖することもあり、トレードマークの笑顔もときには苦しそうに見えた。
全日本インカレでの順位も大学2年のときは9位、3年のときは12位と下降してきた。
だからこそ、大学4年生の今年に懸ける気持ちは強かっただろうが、新型コロナ感染拡大によって、大会も次々に中止となり、満足に練習できない時期が長かった。「自信をもって本番(全日本インカレ)を迎えられる」という状況ではなかったのではないかと思う。
それでも、今大会での亀井理恵子は、強かった。
1種目目のフープでは惜しい落下が1回あった。
が、2種目目のボールではそのミスを引きずることなく、会心の演技で18.200をマーク。
前半種目での暫定順位で6位につけた。

2日目1種目目のクラブも、圧巻だった。
曲にのって踊る、踊る。クラブというもっとも神経を使う種目であることを忘れさせるくらいのダンサブルな演技で、「亀井理恵子」の良さがさく裂し、18.550。
そして、迎えた最終種目・リボンでも危ない瞬間はあったが、大崩れせず踊り切った。
1種目目のフープで落下が出たとき、ミスして自滅することの多かったここ数年の試合のことが脳裏をよぎったんじゃないかと思う。
が、見事にそれを振り切って、今大会の亀井理恵子は、「自分の演技を楽しんで演じる」ことを最後まで貫いていた。
個人総合順位は6位。
メダルには届かなかったが、3年ぶりに入賞を果たした。
一度落ちたところから這い上がるのは、昇り続けることに比べるときつい。
「もうだめかもしれない」と思いそうになる自分と戦いつつ、「もうだめなんじゃないの」と周囲から思われているんじゃないかという不安とも戦わなければならない。
その苦しさに耐えられなければ、「もういいや」と投げだしたくなるし、投げ出す選手も少なくない。
でも、亀井理恵子はそうならなかった。
最後まで踏ん張り、苦しい中でも笑顔で「自分」を貫いてくれた。
最後の全日本インカレで、彼女が見せてくれた演技は、「これでこそ亀子!(亀井選手の愛称)」と思えるものだった。
応援してきたみんなが一番見たい彼女だった。

11月20日からの全日本選手権でも、あの笑顔が見たい。
亀井理恵子は、そう思わせる選手だ。
※全日本選手権は無観客での開催となる。テレビ放送予定は以下のとおり。
<写真提供:日本ビデオアルバム協会>撮影:清水綾子
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November 09, 2020 at 04:23PM
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